スウェーデン在住日本人実態調査に関する原稿     1996年4月26日作成完

スウェーデンに居住している日本人の現状

1.スウェーデンには現在日本人は何人居住しているか。

スウェーデンの総人口は1994年12月で約872万人、外国人居住者は、移住後スウェーデン国籍を取得した者を含めて、約96万5千人。日本人居住者は、在スウェーデン日本大使館報告1995年10月調査では、全国で日本国籍所有者のみで1、901人となっているが、この数字は日本人会からの資料で、短期在留者を含め、日本大使館に在留届けを提出していない日本人も相当数あることから正確とはいえない。

1994年12月31日現在、スウェーデン国籍所有者を含め全国(移民局統計)で約2、159人。日本で出生し、現在スウェーデン国籍所有者は男性176、女性296人、計472人。日本国籍所有者は男性715人、女性871人、計1、586人。スウェーデンで出生しながら日本国籍を所有している男性は61人、女性40人、計101人である。この数字には一時的な滞在者、例えば官庁、日本商社および学術研究者などは含まれていない。日本人がスウェーデンに居住する様になったのは、海外旅行自由化が実施された1960年代後半から始まり、70年代になってから増加、85年頃でピークとなりその後少なくなっている。居住者の中には、60歳を迎える者も多く、全国で約30人、ストックホルム県内で男性4人、女性15人、計19人いる。健康者が多いが、中には健康に恵まれず長期の病生活、または身体障害者として生活をしている者いる。私個人的に知っている友人の中には、すでに癌、その他の病気で死亡した者も10人を越える。また中度の痴呆症となり、サービスハウスで余生を過ごしている者もいる。こうした実情を知り、私は在住する日本人は、老後の生活をどの様に考えているのか、不安を抱きつつ何も出来ないまま、老後を迎えようとしているのだろうか、スウェーデンで老後の生活を計画している日本人の中には、日本人高齢者ホームセンターなどで生活出来る可能性があれば、入居希望者がいるのではないかと実態調査をする事にした。

調査をする前に実際に『日本人高齢者ホームセンター』を設立する可能性があるのか、社会福祉局を始め関係官庁に確認したところ、現在すでに同様の悩みを抱えている外国人居住者のために、同国人を対象とした施設があり、計画中の施設もあることも判明、また建設に対しては国や地方自治体からの施設の提供、補助金制度などがあり、必ずしもホームセンター設立が不可能ではないことが確認できた。ストックホルムには、昨年フインランド人のみの老人ホーム、そして今春に外人居住者が70%を越す住宅地に、イラン人高齢者のためにデイケアーセンターが開設し大変に好評である。

2.日本人の老後生活は。

 調査回答者の中に60歳を越えた婦人が「『日本人ホームセンター』はぜひ設立して戴きたいと思います。私が入居させていただける時まで生きているかわかりませんが、息子や娘には本当に結構なことだと存じます。スウェーデンで私は白内症の手術等で数回入院も致しましたが、食事他いろいろと日本的な看護があればなあと思ったこともありましたので、日本人ホームセンターが出来ることはとてもありがたいと皆様考えられるのではないかと思っております」と書いてあったが、高齢者で病気や入院などを経験した人達は、自らの体験でスウェーデン式介護が、日本人の生活習慣、カルチャー、食事等の違いや言葉の問題と重なり、精神的にも肉体的にも必ずしも適しているとは限らないことを知っている。

調査の結果は予想通り多くの日本人が老後の生活を、スウェーデンで過ごすか、日本へ帰国するかの選択をせざるを得なくなり、特に現在なんらかの健康を害している50歳以上の者は、不安で未確定な老後の生活を予想し、スウェーデン人または他国の人と結婚したり、同居生活している日本人においては、この問題はさらに深刻であることが明らかになった。その反面、スウェーデンに永住せざる得ない個人的な事情として、日本の両親が死亡していたり、兄弟も高齢で今更世話をかけることも出来ず、スウェーデンから現在の年齢で帰国しても、再就職の可能性が非常に難しく、住宅事情もスウェーデンの生活基準に対応する住居は不可能に等しいこと、子供が日本で将来の生活をあまり希望していないなどもある。

スウェーデンの首都である、ストックホルム近郷にすむ日本人在住者(県内で男性522人、女性526人、計1.048人)は多く、距離的にも近く居住し交流の可能性もあり、孤立することは少ないが、地方に住む日本人は、本人以外一人も日本人が住んでいない地区もあり、交流は電話で話す程度と少なく、日本人社会から孤立している。スウェーデン人は総体的に徹底した個人主義であり、他人に自分の領域に入られることを極端に嫌う傾向が強く、外国人に対しても表面的には人種差別を否定し、民主主義を唱えながら、個人的に開放的でない国民性から、日本人も他の外国人同様にスウェーデン人との隣組同士の交際はあまりなく、孤立した寂しい生活を余儀なくさせられている。地方在住者にホームセンターの設立を希望する者が多く、夫婦のどちらかが既に死亡している者の中には、子供達は独立し他都市に居住にもかかわらず、お墓を守りたいからと住み慣れた土地から離れ難く「地方にも住む私達を忘れないで下さい」とストックホルム以外にも設立を希望する者が少なくない。またスウェーデン人高齢者の施設入居希望者は多く、彼らは施設の絶対数が少ないために入居できるまで数年待たなくてはならず、入居できないまま死亡する者もいる。

また施設不足、カルチャー、食事、生活習慣、宗教、外国人同士の敵国意識等の問題も影響しながら、現実には外国人高齢者は必ずしも、こうしたスウェーデンの社会福祉の制度を十分に受けてはいないことも忘れてはならない。

3.スウェーデンの公的年金制度

スウェーデン経済が過去の近代工業国時代の旺盛な時に確立された社会福祉制度は、世界でも高齢者福祉国家の先進国となり、日本からも数年来視察団が絶えないが、高度な社会福祉を維持するには、国が経済的に豊かでなければならない。現在は経済不況で失業者も多くなり、経済政策として、国費の節約を政府は余儀なくされ、高齢者への福祉対策も例外でなく、経費節約で予算が縮小され悪化への方向に進み、過去の素晴らしいまでの高齢者社会福祉は昔の物語となりつつある。老齢年金の制度も1994年に改定案が政府に退出され1996年から実施、老後の生活も完全保障は期待されなくなってきた。不況に伴い、日本人の失業者も他の国の失業者に比べれば少ないが増加しており、特に地方に住む日本人女性の失業が多い。勤務年数が直接定年後の年金金額に影響するだけに、老後生活は必ずしも安心はできない。

日本人は勤勉で仕事に忠実な者が多く、就業率は他国の居住者に比べて高いが、公務員として、病院、福祉施設に勤務する者も、不況と能率、合理化の波を受けて、民営化が進められ人員整理で失業する者も年々多くなってきている。これは当然将来の老齢年金収入に大きく影響を受けることになる。

スウェーデンの年齢年金を簡単に説明すると、次の様になる

公的年金として基礎年金と付加年金がある。

基礎年金制度

老齢年金

障害年金

家族年金

基礎額によって決定される定額(96年度では36、200kr)65歳以上。

徐々に引き上げられていく予定。

慢性疾患あるいは障害を持つ16〜65歳の人に支給可能。60歳以上で老年により通常の仕事が不可能で、他に適当な仕事が無い場合は認定により支給され障害程度による全日、75%、50%、25%の支給となる。

児童年金:片親または両親を失った未成年。

特別給付

年金補足

妻補足

児童補足

児童ケア手当

障害手当

都市住宅手当

付加年金がとほんどないか、全く受給資格のない者に給付可能。

夫が老齢年金(65歳)または障害年金を受給しているその妻で60歳以上、最低5年結婚していた妻に給付可能。しかしこの妻補足は将来廃止されることになっている。

家庭に16歳以下の子供を持つ年金受給者に給付可能。

家庭にケアを必要とする重度の障害、または慢性疾患を持つ子供の親に給付可能。

日常生活で家庭で特別援助を必要とする人に、ニーズによる金額が給付可能。

低額年金の人に給付可能。金額は収入、住宅費用、都市によって異なる。

付加年金制度(ATP)

個人の雇用収入を基礎に計算する付加年金。

部分年金制度

61歳ー64歳の者で労働時間を短縮希望者は、雇用者がパートタイムの労働を認める場合、

労働時間の短縮方法としては、次の3つがある。

1.毎日短縮労働

2.4週間労働し、1週間休日

3.週に4日労働。

さらに週に少なくても5時間短縮可能であり、週に最低17時間労働しなくてはならない。

96年度、部分年金は損失した収入の55%である。

.日本人居住者にもっとも関係する付加年金制度について。

付加年金制度(ATP)は、16歳から64歳までの間に、スウェーデンに最低3年間居住した者、または最低3年の付加年金所得のポイントを得ている者で、いずれの国籍をも問わない。

全額支給取得可能者は40年間スウェーデンに居住した者、または30年間の付加年金所得ポイントを有している者で、収入がもっとも多かった15年間のポイントの平均値に年金支給年の基礎額と60%を乗じて計算される。ストックホルム県内では50歳以上の日本人は男性69人、女性66人、計135人いる。日本人の離婚率は70ー80%と高く、1995年1月1日から法律改正で結婚者も同居登録者も同様に年金制度が与えられることになり、以前よりは幾分老齢年金が保障されるものの、老後の安定した年金収入とはならない。しかもある一定以上の年齢に達してから、スウェーデンに居住している者は年金ポイント不足の問題がある。政府は新たに基礎年金と付加年金制度を改正、年金金額計算を現在の30年勤務の内15年最大の収入計算を廃止して、これらの年金を統一、2,000年から徐々に支払いを実施することになっている。

日本人の年金はどの様になるか例を示して計算してみた。(両者ともに仮名)

  1. 加藤和男、50歳工員、1970年に25歳の時スウェーデンに旅行で来た。レストランの皿洗いの仕事を得て労働許可書を取得後、いろいろな仕事を経験して現在の職場に10年前から全日勤務している。収入は中間クラスに属し毎年組合の基準に従って増加している。1995年で月給17,000:-kr、定年まで無事に勤務した場合、65歳で年金は月額11,091:-kr (最終給料基準の65%計算)。

  2. 鈴木和子、54歳店員、1968年から店員見習いとして勤務、4年全日勤務をし、1972年1975年1979年に3人の子供を出産する。1972−1984年まで子供の養育のため仕事はしていない。しかし1985年に75%の勤務時間で店員として務める。1994年に全日勤務に戻り、65歳まで勤務したとして、11年間の子供養育期間年金保障が加算される。最終給料基準は月給12,000:-krの64%計算で、月額7,729:-krとなる。

この仮計算でも分かるように、特に女性で子供の養育や失業で勤務年数不足と定収入の場合、年金は少なく都市住宅手当等を受けないと、年金のみでは日常生活は困難になる。日本人の老後の生活は、安心出来る生活が保障されているとは断定できない。

5.スウェーデンの日本人社会は。

簡単に言えば、日本の縮小版と思えばよいだろう。スウェーデンに居住している日本人の年齢、日本での職業経験の有無、現在の職業、過去の教育、出身地等は実に変化に恵まれている。調査でも明らかな様に、日本人の日常生活は家庭内の行動範囲に留まることが多く、外部との交流も制限されたものとなっている。

スウェーデンに住む日本人は3つのグループに分類できる。

第一は官庁、大学研究者および日本商社関係者とその家族で多くは短期滞在者であるが、一部には長期滞在者もいる。第二は旅行や勉学のために来た後、結婚したり就職し、そのまま長期滞在者となっている者。第三は日本や他国でスウェーデン人と知り合い、結婚後職場の都合などでスウェーデンに帰国した家族の滞在者である。在住日本人はグループ化しており、そのグループ仲間のみと交際している者達と、全く他の日本人と交流のない個人の生活に徹している者がいる。グループ化している日本人は職業、出身地、国内居住地、教育、国際結婚等個人的な事情が理由で分かれていると推測される。表面的には社交的であるが、グループ化している日本人は他のグループとの親密な交流は少ない。総対的に排他的であり、さらに日本から若い時に、海外に独力で渡航した来た人達は強い個性の持ち主が多く、努力型タイプが多いが故に利己主義的であることも理由といえる。ストックホルムを始めとし全国に地方日本人会が五つあり、それぞれ親交と第二世代のために、年に数回催し物が計画実行されているが、参加者はいつも同じ日本人となりマンネリ化している傾向にあり、例えばスウェーデンに住む、ギリシャ、イラン、チリなどの国民のように気楽に毎週集合所に集まったりして交流する事は、日本人の場合ほとんど無い状態である。国民性の違いとも言うべきかも知れない。

計画されている『日本人高齢者ホームセンター』は、限られた生活枠内でのグループ生活が基本であり、入居者同士がお互いに楽しく余生を過ごすことが目的であるが故に、入居希望者の選択はこうした傾向をよく考慮して、人間関係がスムーズに行く人達同士の集まりとすることが大切であるが、また反面容易なことではないと思われる。

6.『日本人高齢者ホームセンター』には。

入居を希望する日本人(入居当時の国籍に関係なく)または、その配偶者、同居人(国籍を問わず)が老後の生活を、一箇所に集合して言葉の不自由や生活習慣の違いから来るわずらわしさを取り除き、日常生活を過ごすことが目的である。当然日本人が主体となるために日本食の食事が可能であり、日本語を理解し介護等の専門教育を受けた職員が勤務し、日常生活の諸問題の解決なども、高齢と共に言語障害が予測され、日本語でなければ、お互いに理解出来なることも予測し対応する必要がある。リハビリ等には趣味を生かし、日本人の多くが好む盆栽や刺繍、将棋や碁等のレクレーションが出来る日本部屋の設備があることが理想的である。また健康面の考慮としてバス等による遠足、島巡り、身内家族とのハイキング、観劇などのレクレーションも定期的に実施されることも大切な活動である。国内や日本など遠方からの身内家族や友人が入居者への訪問に際し、ホームセンターに数日滞在出来るゲストルームの設置があれば、家族や友人との交流を続けられる可能性があると同時に、施設側と身内家族との話し合いの場所が出来、両者の交流と理解に効果があると思われる。また日本から介護の勉強をしたい人達の実地研修の場所に提供することは、両国の交流ともなり計画の中に組みこまれている。

7.スウェーデンの高齢者住宅は。

日本の一般住宅と比較してみよう。例えばスウェーデンのアパート住宅は、台所には必ず換気扇付き電気レンジ、冷凍庫、冷蔵庫、食料入れ、その他のキッチンセットが付いてる。風呂場にはシャワーまたは風呂とトイレがあり、風呂場の鏡ケースなどもスタンダードとして設置されている。洋服などの物入れも取り付けてあり、テーブル、椅子、ベッドなど個人的な家具さえあれば住居としてすぐに生活が出来る。冬期への暖房施設も完備し、お湯の心配もいらない。部屋は建築基準で一部屋(1DK)のアパートで35平方が基準となり、広く余裕のある住宅となっている。

家賃も台所、風呂場(トイレ込み)、寝室のあるアパート一部屋タイプで月額2,500:-kr位から3,000:-krであり、日本に比べて基礎設備を考慮するととても安い。しかも新しい建物は将来身体障害者が入居しても、改造の必要があまりないように設計されていることも忘れてはならない。また3階以上の建物には必ずエレベーターの設置が義務となっているが、新建築物では2階立てのアパートでも、将来身体障害者が入居しても生活が可能な様に設置されている。

8.スウェーデンの医療制度は。

数年前までは病気で、地域診療所の診断を受けたり、病院に治療や手術のため入院しても国民の医療負担費は低額であった。しかし経済不況は医療面にも大きく影響し、最近は経費節約と効率化を目的に病院閉鎖したり、手術の担当を他の病院と統合して人員整理も実行されている。しかし経済不況の中でも、例えば子供の出産費用は無料であり、出産手当すら支給される。医療費の一例を示すと、例えば専門医、緊急、地域診療所等の訪問先と在住する県によって受診料は若干の差はあるがストックホルムの場合は地域診療所の受診料は120:-kr、妊婦の助産診療所、乳生児の診療所および16以下の小児が地区看護婦訪は無料である。病院入院費は病気の種類に関係なく、年収入が70,000:-以上の場合は一日80:-krであり、年収入が7万kr以下の人はその金額によって差額分補助金が支払われる。また1年間以内の医療費、薬代、往診費用等の自己負担金額が1,800krを越すと、それ以上は無料となる。

産休休暇は子供の出産前240日以前に職業を持ち収入があれば、450日間の産休手当が一定の基準によって有給休暇となる。

9.学校教育は。

小中学校教育、高校(専門を含む)教育、大学、職業学校等は全て無料である。大学は教科書差の他教材等は自己負担であり、入学時に約400krの登録費と、学期単位費を課目により差額があるが、約300kr前後支払う。日本の教育事情と比較すると、いかにスウェーデンの子供達は恵まれているか理解できる。

この恵まれた医療制度、教育制度そして住宅事情等が、日本人が高齢となっても帰国しにくい理由の一つでもある。

10.ボランティア活動は。

スウェーデンでは60年代に現在の社会福祉制度が実施されてからは、高齢者は国が公的施設で面倒をを見るものと言う観念があり、ホームヘルパーやケアーサービスでは人手不足にもかかわらず、ボランティアへ望みをかけていない。またボランティアの活動はほんの一部のみである。スウェーデン人のみでなく、日本人も第二世である子供達による、在宅介護は期待できないと思わなければならいだろう。実態調査回答でも、自分の子供に老後の世話を期待してはいないことが明確に出ている。

おわり。